「 ファミコンの登場と一致する日本の子どもの学力低下 親子に必要な家庭生活改革 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年1月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 574
世界の高校一年生を対象に行なわれたOECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA)結果が2004年12月に発表されて以来、日本の子どもの国際的学力水準が論議を呼んでいるが、同月、それに続いて発表された「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS2003、国際教育到達度評価学会)結果では、さらに低年齢の子どもたちの学力が下がり続けていることが確認された。この調査の対象は、小学校4年生と中学校2年生である。
中山成彬・文部科学大臣は学力低下の事実を認め、ゆとり教育の見直しを明確に打ち出した。日本の学校現場には熱心な教師もいるが、すべて上任せの教師も多い。文科省が“ゆとり”と言えば従い、“詰め込み”と言えばまた従う人びとである。したがって、文科省がゆとり教育を否定した今、学校現場は着実に変化していく。
その際に、どんな方向での変化を起こさせるかが大事である。「百ます計算」「読み書き計算」教育で目覚ましい成果を上げた広島県尾道市立土堂小学校の陰山英男(かげやま・ひでお)校長は、2004年の東京大学合格者に注目する。
「地方の公立高校卒業生と、年収500万円以下の家庭の子どもたちが大躍進したのです。成績が悪い地方の公立高校と生徒たちが、ダメ高校と言われて奮起した結果です。見事に成績を上げている。言い換えれば、対策を打てば、できるようになるのです」
では、対策とは何か。詰め込み授業に変えただけで立ち直る子どもたちも大勢いる。しかし、真ん中より下の子たちはそうではない。陰山校長は、彼らは(学ぶ)土台をつくってもらっていない子どもたちなのだと分析し、しかも、彼らの出現と増加は、日本の家庭での“ファミコン”の登場と普及に比例すると推測する。
「1983年、任天堂のファミリーコンピュータ発売が、この国の子どもたちの体力と学力の低下の始まりだと私は見ています。88年にはドラゴンクエスト3が売り出され、400万本売れました。これは小中学生のいる世帯数に迫る本数で、ほとんどの家庭にテレビゲームが行き渡ったといえる状態になりました。当時、テレビゲームにハマった子たちが親になり、現在彼らの子どもたちが小学校に入っており、その子たちの多くが知力の土台を欠いているのです」
ベテラン教師の説明は、次のように続いた。
テレビゲームに夢中になるあまり、子どもたちは睡眠も食事もおろそかになり、体力が低下する。子どもの場合、体力の低下は、おとなよりもはっきりと、気力の低下につながる。勉強もせず、集中できない子が増加する。睡眠時間の減少によって朝寝をする子が増え、生活のリズムが崩れていく。この子たちの生活指導を、テレビゲームで育った親たちは、してやることが出来ない。親たち自身がきちんとした生活習慣を身につけていない場合が多いからだ。
知力体力共に健康な子どもは、テレビゲームにハマった生活習慣からは育たない。本来の早寝早起きの生活に引き戻すことが重要だ。土堂小学校ではテレビやテレビゲームに費やす時間を1日2時間以内、できれば1時間以内に制限することに、八割を超す親の協力を得ている。家庭での食事指導にも熱心だ。朝食をしっかり摂(と)らせ、食品数も多くしてバランスをよくする。この点でも家庭の協力は欠かせない。
こうしてきちんと体力をつくってやることなしに詰め込み教育をしても、効果はない。子どもの頭脳は磨いてやれば必ず光る。家庭での正しい生活習慣で体力を養うことが基本なのだ。
この国は人材によって開かれる。人材は教育によって育まれる。そして教育は家庭から始まる。家庭生活の見直しと学校改革が対になって初めて、未来を担う賢い子どもたちが育つ。